名目増加と制度の整合性 ― 所得金額調整控除をめぐって

給与と年金の双方を受けている方には、一定の要件のもとで「所得金額調整控除」が適用されています。これは、給与所得と公的年金等に係る雑所得が重なることによる負担の偏りを緩和するための仕組みです。

今般、一定所得金額以下の方について、給与所得控除額の下限が55万円から65万円へと引き上げられました。物価上昇局面において、名目賃金のみが膨らみ、実質負担が重くなることを避ける趣旨なのだろうと思います。

ここで私は、次のように想像していました。

この引き上げ対象者については、所得金額調整控除は非適用になるのではないか。給与所得控除の下限を拡張する以上、二重の緩和を避けるため、既存の調整控除は整理されるのではないだろうか、というものです。

しかし、実際の所得計算では、調整控除は存置されています。給与所得控除の引き上げと所得金額調整控除は、それぞれ独立した仕組みとして維持されているようです。

仮に、給与所得控除を引き上げつつ別の調整で相殺するなら、それは制度内で効果を打ち消し合う構造になってしまいます。今回の設計は、少なくともそのような相殺を行っていないように見えます。物価高対策としての仕組みは、そのまま効かせる形で維持されているように感じます。

名目が先行する局面で、制度が過度な負担を生じさせないようにする。そのために既存の調整機構を維持した、と読むこともできそうです。

制度設計の一貫性という観点から見ると、この構造は明快に思えます。制度はしばしば複数の目的が重なり合う場です。だからこそ、どの仕組みが何を担っているのかを分離して設計することが大切なのだろうと思います。今回の措置は、その分離が保たれているひとつの好例だと感じます。

設計思想の整合性に、個人的には静かな敬意を抱きました。

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