AIは、あらゆる可能性を展開することができます。一方、SaaS(Software as a Service、サース)は「制度」を継続するものなのです。
最近、「SaaSは死ぬ」と言われることがあります。生成AIがコードを書けるなら、業務ソフトも不要になるという議論です。
しかし私は思います。その議論は、SaaSを「Software」の側面からのみ捉えたものではないか。本来、SaaSの本質は「Service」にあるのではないか、と。
AIの可能性とは何か
AIは、あらゆる問題を自律的に解決する魔法のように語られることがあります。その一方で、ときに事実と異なる内容を生成すると批判されることもあります。しかし私から見ると、そのいずれも正確ではありません。
AIは、既知の情報から「あり得る可能性」を提示する存在です。それは、可能性を無秩序に揺らしているのではなく、意図的に展開しているのです。
- AIは視点を動かせます。
- 前提を仮置きできます。
- 別の立場から再構成できます。
つまり、視点を自由に展開できる柔軟性とタフな創造性を持っています。しかも、その発想の属性は一意に固定されていません。
あらゆる条件は対話を通じて定まります。
本来、答えは千者に対して万別になり得ます。
ここにAIの圧倒的な可能性があります。
その可能性の中には、ときに実在しない可能性も含まれます。いわゆるハルシネーションです。
しかしそれもまた、「可能性の提示」という構造の一部であり、その適否は最終的に対話者の選択に委ねられます。
制度は自由ではなく、継続を求める
ところが、現実世界の実務領域を規定する「社会制度」は、あまりに自由な可能性の展開を許容するものではありません。
税務、労務、会計には、
- 書式がある
- 期限がある
- 連続した履歴がある
- 法改正に即応しなければならない
ここでは、可能性の展開よりも、整合性の継続が強く求められます。
AIはケースを的確に捉えることも、新たな法理を見出すこともできます。
行政の視点、納税者の視点といった立場の切り替えも、対話の進み方によって自在です。
しかし、可能性が自由であるがゆえに、事務処理的な制度の連続性そのものを構造として担保する存在ではありません。
ここで、SaaSが担う「Service」の視点が必要になります。
SaaSの“Service”とは何か
SaaSは単なるアプリケーションではありません。それは、次の三つを担っています。
① 制度検証性
法令や実務を踏まえ、一定の合理性を持つロジックが設計され、固定されていること。
利用者は、その設計が集団的検討の上に成り立っていると信頼できます。
② システム保守性
法改正や解釈変更に継続的に対応する責任。
コードを書くことと、更新責任を引き受け続けることは別です。SaaSはその更新をサービスとして担っています。
③ 永続性(制度の継続性)
制度は単年で終わりません。
- 繰越
- 履歴
- 等級
- 過去との整合
SaaSは時間軸を引き受けています。
単年の最適解ではなく、制度の連続性を維持する構造なのです。
AIとSaaSは対立しない
だからこそ、AIとSaaSは対立しません。
AIは視点を展開する。
SaaSは制度を継続する。
AIは創造性を担い、
SaaSは整合性を担う。
片方が他方を殺す関係ではありません。
展開の上に継続があり、
継続の上に展開がある。
そう言えるでしょう。
結論 ― これは構造である
SaaSは直ちになくなることはないでしょう。
それは単なるソフトウェアではなく、
- 制度検証性
- 保守責任
- 時間軸の継続性
をサービスとして引き受けている構造だからです。
AIは対話者とともに視点を動かします。
しかし社会制度の継続性は、いつでもその制度に接する当事者が担わなければなりません。
選択はなくならない。
責任もなくならない。
だからこそ、AIもSaaSも、それぞれの位置を持ち続けます。
これは意見ではなく、構造の整理です。
その構造が存在する限り、SaaSは失われることはないでしょう。
