「同日得喪」を整理してみる


定年退職後に再雇用され、給与が少し下がる。実務ではよくある場面です。
このとき、社会保険料をできるだけ早く新しい給与水準に合わせるために使われる手続きがあります。それが「同日得喪(どうじつとくそう)」です。

しかし最初に聞くと、少し不思議に感じます。
3月31日退職、4月1日再雇用なら、「同日」ではないのでは?
実はここに、社会保険ならではの時間の考え方があります。

社会保険の時間の切り方

社会保険(健康保険・厚生年金)では、退職日の翌日が資格喪失日になります。

つまり、

  • 3月31日退職
  • 4月1日資格喪失
  • 4月1日資格取得(再雇用)

という処理になります。

喪失と取得が同じ日、つまり4月1日に行われるため、これを「同日得喪」と呼びます。
制度の時間の切り方を知ると、名称の意味が自然に理解できます。

なぜこの仕組みが必要なのか

社会保険は「標準報酬月額」という等級制度を採用しています。

給与を一定の幅で区切って評価する仕組みで、長期間の保障を前提としています。そのため、給与が下がっても、通常はすぐに保険料が変わりません。

そこで、定年再雇用のように給与が大きく変わる場合には、同日得喪という方法を使い、新しい給与水準をできるだけ早く保険料に反映させることができるようになっています。

これは特例というより、制度の合理的な調整機能と考えることができます。

年金はなぜ等級制なのか

厚生年金は、

  • 数十年にわたる長期加入
  • 将来にわたる終身給付
  • 世代間の再分配を含む制度

という性質を持っています。

もし毎月の実際の給与額をそのまま細かく記録し、それを将来の給付計算に使うと、

  • 計算が非常に複雑になる
  • 行政コストが増大する
  • 制度の安定性が低下する

といった問題が生じます。

そこで採用されているのが標準報酬月額という等級制度です。

現場においては、月ごとに変化する報酬額を一定の幅で整理し、長期的に平均して評価することで、制度の持続可能性を確保しています。
これは単なる簡便化ではなく、長期制度としての安定性を守るための設計です。

雇用保険との違い

一方、雇用保険は性格が異なります。

  • 短期の失業リスクに対応する制度
  • 給付は直近6か月の賃金を基準に決定
  • 給付期間も比較的短い

目的は「直前の生活水準をどれだけ保障するか」にあります。

そのため、

  • 実際の賃金額をベースに保険料を計算
  • 保険料もリアルタイムで連動
  • 給付も直近6か月平均で決定

という仕組みが合理的に成立しています。

同一事業所で翌日に継続再雇用される場合は、雇用保険の資格は継続します。喪失手続きは不要です。

本質は「時間軸の違い」

ここで大切なのは、どちらが優れているという話ではないという点です。
制度の時間軸が違います。

制度時間軸設計思想
年金数十年長期安定・持続可能性
雇用保険数か月~1年直近生活保障

時間軸が違えば、報酬の考え方や手続きの仕組みも変わります。

同日得喪は、長期制度である社会保険の中で、短期的な賃金変動に対応するための仕組みと理解すると、より自然に腑に落ちます。

まとめ

同日得喪は、

  • 定年退職後の再雇用
  • 給与が減額される場合
  • 保険料を速やかに見直すため

に用いられる仕組みです。

名前だけを見ると少し不思議ですが、制度の時間構造を理解すると、非常に整った設計であることが分かります。
日々の手続きの背後にも、こうした制度の考え方が息づいています。

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